壊れてから直すのではなく、壊れる前に手を打つ。予防保全の発想が、建物の寿命と収益を左右します。長期修繕計画と修繕履歴情報、そして原状回復との違いを整理しましょう。
第8章の締めくくり。計画修繕よ。
壊れてから直す事後保全に対して、壊れる前に手を打つのが予防保全。
うぅ…でも、壊れてないのにお金かけるって、もったいなく感じちゃわない?
…ジャスミンちゃん、ラケットのガット、切れてから張り替えてる?
え、まさか! 切れかけたら試合前に張り替えるよ。
試合中に切れたら終わりじゃん?
えへへ。
建物も同じなんだって。
……あ。
ましろちゃん、今わざと誘導したでしょ。
見事なやりとりね。
防水が切れてから雨漏りを直すと、下地まで傷んで費用は跳ね上がる。
予防保全のほうが、長い目で見れば安いの。
そのために長期修繕計画を作成するわけですね。
外壁塗装、屋上防水、給排水管の更新といった部位ごとに、修繕の周期と概算費用を見積もる。
そう。
周期は建物の仕様や立地で変わるから、一律の年数を丸暗記するより「部位ごとに周期と概算費用を設定し、定期的に見直す」という考え方を押さえて。
資金は修繕積立などで計画的に確保するわ。
補足すると、過去の工事内容を残した修繕履歴情報が、次の計画の精度を左右します。
いつ何をいくらで直したかが分からなければ、計画は勘になってしまいます。
そのとおり。
履歴は資産価値の裏づけにもなるし、売買や入居者への説明にも効いてくる。
保管して、活かすこと。
先生…退去のときの原状回復も『直す』ことだけど、これとは違うの?
違うわ。原状回復は退去に伴って個別の住戸で行うもの。
計画修繕は建物全体の維持・保全のために、オーナーが計画的に行うもの。
目的も、費用の負担者も、根拠も別なの。
要は、部屋ごとの後片づけと、建物ぜんぶの健康診断ってこと?
ふふ、いい喩え。
もうひとつ区別してほしいのが、元の機能に戻す「修繕」と、性能を高める「グレードアップ(改良)」。
オートロックの新設は修繕ではないわ。
工事の実施にあたっては、入居者への事前周知も欠かせませんね。
騒音や工期、住戸内への立入りが必要な場合の日程調整まで。
そこまで含めて計画修繕。
設備は建物のものだけれど、暮らしているのは人。
最後はいつも、そこに戻ってくるのよ。
確認クイズ
計画修繕および長期修繕計画に関する記述として、最も適切なものはどれか。
- 計画修繕は、賃借人の退去に伴い当該住戸を入居時の状態に戻すために行う工事である。
- 予防保全とは、設備の不具合が発生した後に速やかに修繕を行う考え方をいう。
- 長期修繕計画は、部位ごとに修繕の周期と概算費用を設定するもので、修繕履歴情報の保管・活用がその精度を高める。
- 既存の設備をより性能の高いものに取り替えるグレードアップは、修繕と同一の概念である。
こたえを見る
正解: 3. 長期修繕計画は、部位ごとに修繕の周期と概算費用を設定するもので、修繕履歴情報の保管・活用がその精度を高める。
正解は選択肢3。長期修繕計画は外壁塗装・屋上防水・給排水管の更新等について部位ごとに周期と概算費用を定めるもので、修繕履歴情報を保管・活用することで計画の精度が高まります。選択肢1は誤りで、それは原状回復の説明です。計画修繕は建物全体の維持・保全のために計画的に行うものです。選択肢2も誤りで、不具合の発生後に対応するのは事後保全。予防保全は不具合が生じる前に手を打つ考え方です。選択肢4も誤りで、元の機能に戻す修繕と、性能を高めるグレードアップ(改良)は区別されます。