退去時のトラブルは、退去時に生まれるのではありません。入居時に記録を残さなかったことのツケが、ここで表面化するだけです。
退去の場面を順に追いましょう。
まず賃借人から解約の申入れを受け付けます。
予告期間は契約で定められているのが通常ね。
受付日を記録し、明渡しの日を確定させる。
ここが起点になりますね。
ええ。
次が山場、退去立会い。
賃借人と一緒に室内を確認して、入居時の記録と照合します。
えへへ、あの写真とチェックシート、ここで効いてくるんですね。
でも立会いって、ちょっと気まずくない…? その場で「これはあなたの負担です」って言うんでしょ?
気まずくなるのは、準備がないときよ。原状回復の負担区分は、あらかじめ基準が決まっているの。通常損耗と経年変化は賃貸人の負担、賃借人の故意・過失や善管注意義務違反による損耗は賃借人の負担。
民法621条とガイドラインの考え方ね。
日焼けによる畳や壁紙の変色は通常損耗、たばこのヤニ汚れや落書きは賃借人負担。
基準を示せば、感情論になりにくいわけですね。
そう。その場で説明し、合意を得て、書面に残す。
立会いは対決の場ではなく、合意形成の場なの。
…もし、賃借人さんが立会いに来てくれなかったら?
無理強いはできないわ。
その場合も一方的に決めつけず、室内の状況を写真等で客観的に記録して、後日、内訳を示して説明する。
手を抜いた分だけ紛争のリスクが上がります。
じゃあ敷金は? いつ返ってくるの?
民法622条の2。賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときに、未払賃料や賃借人負担の原状回復費用などを差し引いた残額を返還します。
…あれ? 鍵を返すのと敷金をもらうの、同時じゃないの?
そこ、狙われるところ。明渡しが先、敷金返還が後。
両者は同時履行の関係に立ちません。
「敷金を返してくれるまで出て行かない」という主張は通らないのよ。
明渡しを受けた後、遅滞なく精算して返還する。
そして精算書で内訳を示す、と。
そのとおり。
管理業者も特定転貸事業者も、説明責任を負う立場です。
金額の根拠を示せない請求は、通らないと思いなさい。
記録がすべてを決めます。
確認クイズ
退去時の立会いおよび敷金の精算に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。
- 賃借人は、敷金の返還を受けるまで、賃貸物件の明渡しを拒むことができる
- 敷金の返還債務は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、未払賃料等を控除した残額について生じる
- 壁紙の日照による変色は、賃借人の善管注意義務違反として賃借人の負担となる
- 退去立会いに賃借人が応じない場合、管理業者は室内の状況を記録することなく、賃貸人の請求額をそのまま請求してよい
こたえを見る
正解: 2. 敷金の返還債務は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、未払賃料等を控除した残額について生じる
民法622条の2により、敷金返還債務は賃貸借の終了かつ賃貸物の返還を受けたときに生じます。したがって選択肢1は誤りで、明渡しが先、敷金返還が後であり、両者は同時履行の関係に立ちません。選択肢3も誤りで、日照による変色は通常損耗・経年変化として賃貸人負担が原則です。選択肢4は説明責任を果たしておらず不適切で、客観的な記録に基づき内訳を示す必要があります。