賃貸人が「出ていってほしい」と言うために越えるべき最後のハードルが正当事由です。何がどう考慮されるのかを、条文に沿って確認します。
先生! お金をたくさん払えば、出ていってもらえるんでしょ?
ジャスミンさん、それが今日いちばん壊したい誤解ね。
結論から言うと、そうとは限らないの。
正当事由の条文は借地借家法28条ですね。
考慮要素が列挙されています。
そう。
①賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情、②賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤立退料など財産上の給付の申出。
この5つを総合考慮します。
…①だけ、なんだか特別扱いされてる感じがする。
鋭いわ、ましろさん。
条文でも①が「主たる要素」として先に置かれ、他は「ほか」として並べられているの。
両当事者がどれだけその建物を必要としているか、が中心軸よ。
先生、⑤の立退料は「明渡しの条件として、または明渡しと引換えに」財産上の給付をする旨の申出——つまり、あくまで申出が考慮されるにとどまるのですね。
そのとおり。立退料は正当事由を補完する要素。
他の事情が乏しいのに、お金だけで正当事由が備わるわけではないの。
えーっ! じゃあ、いくら積んでもダメなときはダメ?
ええ。
逆に、賃貸人の必要性がある程度認められる事案で、あと一歩足りない——そこに立退料が加わって正当事由が認められる、という使われ方をします。
…お金で人の暮らしを買えるわけじゃない、ってことだよね。
ましろちゃん、まさにそれが立法の趣旨だと思う。
生活の基盤を守るための制度だから。
…そっか。
あたし、ちょっと軽く考えてた。
気づけたなら十分よ。
ちなみに転借人がいる場合、転借人が建物の使用を必要とする事情も考慮されます (28条括弧書)。
実際に住んでいる人の事情を見落とさない、という配慮ですね。
そのとおり。
試験では「立退料の提供により当然に正当事由が認められる」という選択肢が頻出の誤り肢。
反射で×にできるようにしておいて。
確認クイズ
建物賃貸借における正当事由に関する記述として、正しいものはどれか。
- 賃貸人が十分な額の立退料を提供すれば、他の事情を問わず当然に正当事由が認められる。
- 正当事由の判断において、賃貸人が建物の使用を必要とする事情のみが考慮され、賃借人側の事情は考慮されない。
- 正当事由は、建物の使用を必要とする事情を主たる要素とし、従前の経過や建物の利用状況・現況、立退料の申出を総合考慮して判断される。
- 賃借人から更新を拒絶する場合にも、正当事由が必要である。
こたえを見る
正解: 3. 正当事由は、建物の使用を必要とする事情を主たる要素とし、従前の経過や建物の利用状況・現況、立退料の申出を総合考慮して判断される。
借地借家法28条のとおり、正当事由は建物の使用を必要とする事情を主たる要素として、従前の経過・利用状況・現況・立退料の申出を総合考慮して判断されるため選択肢3が正しい記述です。選択肢1は誤りで、立退料は補完的要素にすぎず、提供だけで当然に正当事由が認められるわけではありません。選択肢2も誤りで、賃借人 (転借人を含む) が建物の使用を必要とする事情も考慮されます。選択肢4も誤りで、正当事由が必要なのは賃貸人が更新拒絶や解約申入れをする場合です。