長期の賃貸借では、物価も税負担も相場も動きます。借地借家法32条は、そのズレを事後的に調整する仕組みを用意しました。
借地借家法32条、借賃増減額請求。
家賃が不相当になったとき、当事者は将来に向かって増額または減額を請求できます。
不相当って、どういう基準? 「なんか高い気がする」じゃダメだよね?
条文が三つ挙げています。
①租税その他の負担の増減 ②土地建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動 ③近傍同種の建物の借賃との比較。
これらに照らして不相当になったとき。
補足すると、この請求権は形成権ですね。
相手方に意思表示が到達した時点で、増減の効果が発生する。
そう。
相手の同意は要らないの。
だから「将来に向かって」という限定が効いてくる——過去にさかのぼって取り戻すことはできません。
えっ、勝手に上げられちゃうの…? じゃあ「10年間ぜったい値上げしません」って約束は、意味がないってこと?
ううん、そこは逆。不増額特約——一定期間増額しないという特約は有効です。
条文自身が「その定めに従う」と書いている。
じゃあ「一定期間ぜったい値下げしません」も有効…だよね? 対称っぽいし。
…ジャスミンさん、そこは対称にならないよ。
普通借家では、減額しない旨の特約は無効と解されています。
借地借家法は賃借人の保護が出発点だからよ。
賃借人に不利な特約は効かせない。
増額しない特約は賃借人に有利だから残し、減額しない特約は賃借人に不利だから落とす——理屈は一本なの。
あ、それって…定期借家だと話が変わったりする?
鋭いわ。
定期借家では、借賃の改定に関する特約がある場合、32条の適用がありません。
だから定期借家では減額しない特約も有効。
ここは対比で覚えて。
では、当事者の協議が調わないまま争いになったときは、賃料はいくら払えばよいのでしょうか。
増額請求を受けた賃借人は、裁判が確定するまで自分が相当と認める額を払えば足ります。
ただし確定額に不足があれば、その不足額に年1割の利息を付けて支払う。
なるほど、ゼロ円でいいわけじゃないけど、言い値を丸のみしなくてもいいってことか。
年1割は…けっこう痛いね。
減額請求のときは逆に、賃貸人が相当と認める額を請求でき、後で払わせすぎていたら超過額に年1割を付けて返す。
鏡合わせの構造よ。
確認クイズ
普通建物賃貸借における借賃増減額請求に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 一定の期間、建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合、その定めに従う。
- 一定の期間、建物の借賃を減額しない旨の特約は、賃借人に不利であり無効と解される。
- 増額請求について協議が調わないときは、賃借人は裁判が確定するまで、自らが相当と認める額の借賃を支払えば足りる。
- 増額請求は、請求より前の期間の借賃についても、さかのぼって効力を生じる。
こたえを見る
正解: 4. 増額請求は、請求より前の期間の借賃についても、さかのぼって効力を生じる。
誤っているのは選択肢4です。借賃増減額請求は将来に向かって効力を生じるもので、請求より前の期間にさかのぼることはありません。選択肢1〜3はいずれも正しい記述です。なお不減額特約は、定期建物賃貸借において借賃改定の特約がある場合には有効となります。